一般社団法人 住宅医協会さんの2026年一発目のコラムを書かせていただきました
一部加筆、修正して投稿します
里山で開拓して暮らすという夢をあきらめ、「それなら住宅地に里山をつくってやろう」と庭に何百本もの樹木を植えてから、気づけば10年が経ちました。200本を超えたあたりで数えるのをやめたので、正確な本数はもう分かりません。
6月から始まった毎年恒例の庭の果実(無花果、梨、桑の実などなど)の収穫も9月末で終わり、最近はもっぱら終わりの見えない落ち葉掃除と剪定枝の後片付けに追われています。今年もたくさんの実りがあり、うれしい限りです。
申し遅れました。愛知県・西三河で木造専門の設計事務所を営んでおります、神谷と申します。
SNSで私のことを知ってくださっている方の中には、「果実を育てている人」というイメージが強い方もいるかもしれませんが、実は本業は設計です。
私が初めて“リノベーション”という世界に触れたのは20年前。岐阜県の森林文化アカデミーに学生として在学していた頃のことです。当時はまだリノベーションとリフォームの区別も曖昧で、「リノベーション」という言葉自体が耳慣れない時代でした。アカデミーのある美濃市には伝統的建築物群保存地区があり、自然と古民家や町家に触れる環境が整っていました。
卒業して最初に取り組んだ仕事は、築200年以上の町家の耐震リノベーションでした。まだ住宅医協会もなければノウハウを学べるスクールもない時代です。仲間たちと手探りで進めながら、当時としてはかなり健全なスペックの耐震リノベを実現できたと、今でも誇りに思っています。ありがたいことに、その後も多くの大規模リノベーションに携わらせていただきました。気づけば、あれから20年です。
リノベーションの現場は、新築と違って(ほぼ)図面通りにはいきません。どれだけ細かく描いても、結局は「絵に描いた餅」。ですがそれが面白い。
「リノベーションは、おしゃれにいえばJAZZ。エチュード。」
いかに現場と丁々発止のアドリブで納めていくか。図面はしっかり描くけれど、最後はアドリブ。これこそがリノベーションの現場をまとめるコツだと、日々感じています。ただしアドリブを効かせるには、裏付けとなる情報が欠かせません。
演者は適当にアドリブをしているわけではなく、そのアドリブを裏付ける「確かな技術」をもっています。基本技術をマスターしその上でさらに日々研鑽し続けているからこそアドリブが可能になります。
リノベーションの現場でいえば事例調査、現場詳細調査、そしてそれをもとに検討を重ねた詳細な図面は絶対に必要です。
それらが揃って初めてアドリブが可能な土壌が整います。その上で何より大切なのが、現場の監督さん・職人さんとの風通しの良さなのだと思います。
こうした、いわば「現場の呼吸」を読み取る作業こそ、住宅医の理念そのものではないでしょうか。診断の段階で多方向から仮説を立て、設計で整合性を整理し、現場で最終判断を下す。この往復こそが、既存住宅の価値を丁寧にすくい上げ、次世代へ受け継ぐための確かな方法だと感じています。
職人さんの経験に基づく意見は設計者の視野を広げ、設計者の創造力が現場の施工精度を高めることもあります。互いの専門性が響き合う瞬間は、リノベーションの醍醐味です。
現場との会話から生まれる小さな気づきやアドリブの積み重ねが、住まいの寿命と品質を支える大きな力になる――。これからも診断と現場との協働を大切にしながら、微力ながら地域の住宅ストックを未来につなぐ取り組みを続けていきたいと考えています。
ちなみに私にはJAZZやエチュードの素養は全くありません。
完全な私の主観です。念のため。